高松高等裁判所 昭和25年(う)597号 判決 1950年8月21日
被告人
竹原貞夫こと
李禎夫
主文
原判決を破棄する。
本件を観音寺簡易裁判所に差戻す。
理由
当裁判所が職権で調査するに、刑事訴訟法第二百九十一条第一項によれば、公判審理の冒頭において「検察官はまず起訴状を朗読しなければならない」旨規定しているところ、原審第一回公判調書には検察官が起訴状を朗読した旨の記載がなく、原審各公判調書を検討するも、検察官が起訴状を朗読したことを窮うに足る記載も存しない。尤も原審第一回公判調書によれば、検察官は所謂冒頭陳述として「犯罪事実は起訴状記載の通りである」と述べたこと及び原審第二回公判調書によれば、検察官は起訴状記載の公訴事実の一部を訂正する旨述べたことを認め得るけれども、右によつては未だ検察官が起訴状を朗読したことを窺うことはできない。その他本件記録を精査するも検察官が起訴状を朗読した事実を認めるに足る何等の資料も存しないから、結局原審は検察官の起訴状朗読なくして審理を進め判決をしたことに帰着し、かかる公判の審理は判決の基本となすことができないものと謂はなければならない。従て原審の訴訟手続には法令の違反があり、かかる違背は判決に影響を及ぼすものと認められる。